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インタビュー

酒造インタビュー#3
曙酒造・鈴木さん 2015.07.10

酒造インタビューの第三弾は、震災で蔵が半壊するなどの被害を受けながらも約二年をかけて建て直し、10年、20年先の日本酒業界のあるべき姿を追い求め、次世代に向けた酒造りを牽引している曙酒造・杜氏の鈴木孝一さん。

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震災が本当の意味での自分たちの酒造りのスタート


—— 東日本大震災から4年が経ちましたが、震災の被害や影響などを教えてもらえますか?

当時の仕込みの量は今の半分ほどで、震災の日にはあと2本のタンクの仕込みを残すのみでした。当日の朝は、搾ったばかりの吟醸酒を瓶詰する作業をしていました。地震続報が鳴ったので蔵の皆で逃げるぞとなって、蔵の出入り口から外に出て、振り返ったら蔵の壁が波を打っていたのですよ。次の強い揺れでは空瓶が吹き飛んだり、蔵の敷地内の建物同士がぶつかってすごい音を立てたりしていました。

揺れが収まってきて、最初に気になったのはやはりお酒や蔵、そして蔵人でした。造り蔵は半壊で、近づくとすごいお酒の匂いがするのですよね。太い排水溝からスドドドドッとお酒があふれ出しているのですよ。これはヤバいなと思って貯蔵庫に行ってみると、扉を開いた途端にお酒がものすごい勢いで流れてきましたね。

震災の直後は家でじっくりと両親と話す機会が増えました。その当時の酒造りは、50年来の蔵人たちと相談をしながら行っていたのですが、酒造りの方向性でものすごく対立していたのです。震災直後に家族と話す中で酒造りや蔵としてなど様々なことを考えて、いつまたこういうことが起こるかも分からないし、後悔だけはしたくないと思ったのです。それはつまり自分たちの酒造りをやるということでした。チームを一新して、若い3人の蔵人と私で新たな酒造りをスタートさせることにしました。

—— 復興支援についてお聞かせください。

震災の後、都知事がお酒などは自粛するべきだと言いましたよね。飲んでいる場合じゃないと。それで自粛自粛となっているときに、南部美人の久慈浩介さんがYouTubeで今自粛されたら日本酒業界は終わってしまう、折角きれいな桜が咲いたのだからお酒を飲んでくださいというメッセージを送ったのですよね。被災地からのメッセージ性がとても強く、それがメディアに取り上げられるようになって、一気に復興支援の波が押し寄せてきました。

復興支援としてお酒を飲んでもらえるのは本当に嬉しかったですね。東北の日本酒関連のイベントも増えたのですけど、そこで皆さんからもらった励ましや温かい言葉には涙が込み上げてきたのを今でもはっきりと覚えています。

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日本酒は嗜好品ではなく趣向品


—— 今後の日本酒業界で成長を続けるためには何が必要だと考えていますか?

日本酒がブームだと言われていますけど、数字を見てみると全体では数%伸びただけなのですよね。そしてこの日本酒の勢いはオリンピックで収まるというのが一般的な見方です。収まってしまうから今だけをとことん考えるのか、今にも力を入れながら収まった後のことも考えて動き出すのか、蔵それぞれに考えがあると思いますが、私は後者を選びます。

日本酒業界は全体的に味や品質が上がってきているので、これからはプラスアルファの部分が必要になってくると思います。ぱっと思いつくキーワードが、個性と地元愛。個性という部分では、やはり他と違うことをやっていると印象に残りますよね。これは酒質だけではなく、取り組みや考えも含めてです。

震災の前は会津坂下町で酒造りをしていることが当たり前だったのですが、震災の後はそれが尊いことだと気付きました。振り返ってみると、当時は県外の消費比率が半分を超えていました。他の市場はもちろん魅力的ですが、生まれ育った福島の水と米を使って造っているのに、地元で飲まれていないのはとても寂しい。地酒は地元で愛されるからこそ地酒なのですよね。そこが根幹にないと今後も含めて難しいと改めて気付きました。今では県内消費が7割になっています。これは県外で手を抜いているわけではなく、地元の人とより多くの時間を共有したことの積み重ねだと思っています。

—— 鈴木さんが思い描く理想の日本酒像・酒造像は何ですか?

楽しさがあふれて、ワクワクするような日本酒を造りたいですね。味も仕掛けも全て含めて、あきさせないことが重要だと思います。日本酒業界では機械化が進んでいますが、私は本来の日本酒の姿を守りたいと思っています。それは日本酒に流れる季節感や四季を大切にすること。日本酒は生き物として捉えているので、変化してしかるべきものだと考えていますが、その変化をうまく表現していきたいと思います。

そして、日本酒はもっと人々の生活の中に入り込むようなものになってほしいと思います。味噌や醤油とまでは言わないですけど、どこにでも常にあるもの。人を集めて、その空間自体をカラフルに彩るもの。言い方を変えると、日本酒は嗜好品から脱却して、趣向品になるべきだと思っています。ただ飲むものとして売るだけではなく、趣向を凝らした楽しい部分を付加価値としてつける。例えば子供も楽しめるような、家族連れが来やすい日本酒イベントを催して、子供たちに若い時から日本酒は常に楽しい場にあるものだと思ってもらえるようにしたりですね。

この理想を実現させるために私がやるべきことのはっきりとした答えはまだ見つかっていませんが、常に色々なことに取り組みながら探していければと思います。


曙酒造     —  時代とともに、自然とともに、進化し続ける酒。—