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インタビュー

インタビュー #4
兎屋・二代目、日本酒王子の異名を持つ橋野元樹さん 2015.09.04

渋谷区笹塚でこだわりの和酒と和洋折衷の料理を提供する『兎屋』。今年で20年目を迎えたその店名には、季節ごとに毛が生え変わる山の兎のように、四季折々の旬な食材を用いた料理を提供するという意味が込められています。その兎屋の二代目を務めるのが、日本酒業界で「日本酒王子」の異名を持つ橋野元樹さん。数々の新しい発想を生んできた橋野さんに、兎屋のこだわりや日本酒の魅力について伺いました。

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—— 橋野さんが兎屋で働き始めた当時のことについてお聞かせください

私は元々ライターやアジアを巡るバックパッカーをしていました。母が経営していた兎屋で本格的に働き始めたのは7~8年前からです。当時の経営は傾きかけていて、大きな方向転換が必要な時期でした。そこで元々定食なども扱っていたお店を、和酒に重きを置いた、大人向けのお店にがらっと変えることに決めました。当時は焼酎ブームだったので焼酎を揃えつつも、個人的に好きな日本酒も少しずつ取り揃えていくようになり、どんどんとハマっていきました。始めた当初から大切にしてきたことは、日本酒を気楽に飲めるお店にするということです。日本酒に詳しい利酒師がいて、しっかりとお酒の種類が揃っていて、なおかつ店員さんが押し付けがましくない。そんなお店がなかなかなかったので。

—— 焼酎ブームの中、日本酒にも目を付けたのは何故だったのですか?

バックパッカー時代、海外で出会った人に「お前の国の酒は何だ?」と聞かれると、戸惑っていました。きっと日本酒だと思ってはいたものの、あまり飲んだことがなく知識もなかったので胸を張って答えられなかったのです。帰国してからはちょうど新潟のお酒のブームだったこともあり、少しずつ嗜んでいましたが、ある時ホテルで家族と会食した折にバカラのグラスを使った同じ銘柄の大吟醸の飲み比べを体験し、衝撃を受けました。その後はちょこちょこと日本酒を飲むようになるものの、純米や本醸造等の意味は分からず、ただ銘柄で飲んでいた程度です。お店を和酒のお店に変える際に、都内の地酒屋さんや試飲会をまわり、少しずつ酒販店さんや蔵元さんに教えて頂きながら日本酒の勉強をしました。今でこそ試飲会に行けば蔵の知り合いや仲間がいますが、当時は一人だったので仲良く話をされている方々が本当に羨ましかったです。(笑)

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—— 橋野さんが考案された、日本酒にお客様の目の前で炭酸を加えて提供する「酒パーク」。この商品はどのように生まれ、どのような特徴があるのですか?

『会津娘』ブランドで知られる髙橋庄作酒造の蔵元・髙橋亘さんとの交流から生まれたアイディアです。今でこそ米作りからお酒造りまでされている蔵元さんは沢山いらっしゃいますが、そのさきがけの一人と言っても過言ではありません。米作りの前段階である水・森づくりから手をかけられている蔵で、「自分は農家です」と仰る方なのですが、とても柔軟な発想を持っていらっしゃいます。そんな彼がある時、私に「日本酒に気軽に炭酸(二酸化炭素)を入れられる様、色々機械試してるんだけど上手くいかなくて。」と話されていて、それが酒パークを作るきっかけになりました。元々私は本業が飲食ではなかったからこそ、お店で日本酒に炭酸を注入することも抵抗ないと判断しましたし、蔵元さんのお墨付きでしたからね。たまに否定的な方もいらっしゃいますが、私はあくまで日本酒への入り口としてアリだと思っています。3年前からやっているのですが、今では当店の名物メニューになっていますよ。

また、お客様の目の前で炭酸を入れると言うエンターテイメント性は非常に喜んでもらえますし、お酒に炭酸を加えることで酸の印象が強くなり、他の味わいもクリアに浮かび上がるのが、そのままの状態の日本酒と飲み比べてもらうことではっきりと分かります。

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橋野さんに目の前で酒パークを実際に作っていただきました


—— スタンダードな日本酒はどのようにセレクトし、お客様におすすめしているのですか?

当初は人気のある銘柄や、要望のある銘柄を揃えていましたが、蔵元さんの知り合いが増えた今は‘‘お会いしたことがあり、一本一本の背景を語れるお酒‘‘を仕入れるようにしています。例えば「『天明』の杜氏の鈴木さんは体が大きくて30歳で若いけど、キャリアがしっかりあって、会津の若手の中では代表格です」や、「ラーメンで有名な喜多方で今グングン来ている大和川酒造はご兄弟でやられていて」等という風に語ったりするのですが、先ずお酒に親近感を持ってもらえると思うんです。メニューのオーダーを取るのにiPadを使っているのですが、お客様と蔵での体験を共有するために、蔵の色々な写真をお見せしたりもします。味だけでは記憶に残りにくいですが、他所で同じ銘柄に出会った時にも思い出してくれやすくなるかも知れませんね。

またメニューにはスペックはあえて細かく書いていません。もちろん質問されればいくらでも答えますが、スペックが先入観を生んでしまうことが怖いのと、スペックよりもストーリーを僕は語りたいですし、逆の立場になった場合聞きたいと思うので。

兎屋ではお客様に日本酒をもっと楽しんでもらうために、独自のチャートを作成してメニューに入れて使っています。普段見かけるxy軸のチャートを使わない理由は、xy軸で好きな日本酒の区分を決めてしまうと、お客様が色々なお酒に挑戦しなくなってしまうからです。実際、今の地酒は美味しいものだらけなので、お客様に幅広く色々なお酒を楽しんでもらいたいと思っています。このチャートは三つのタイプの中で苦手なものがあれば、それ以外で遊んでもらうという仕組みです。昔は辛口のお酒しか売れなかったのですが、この様に見せることで先入観が薄まりますので、130mlのちょっとした冒険をしてもらえると思っています。

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左が普段使われているxy軸のチャート、そして右が橋野さんが考案したチャート


—— 日本酒が販売されるシステムの中で、飲食店の役割とは何ですか?

蔵元=酒販店=飲食店と言う流れの中で、お酒のバトンを最後にお客様へ渡すのが私たちの役割であり、忘れてはいけない重要な事だと思っています。そして、蔵や流通網が進化している昨今、飲食店も同じく進化しなくてはならないと思っています。兎屋ではお酒のうんちくをお客様に押し付けるのではなく、お客様が求めている半歩先の情報を会話の中から探し出し、提供するように心掛けています。マニアックな情報を提供するのは、喜ぶお客様もいらっしゃいますが、そう言うのに強い専門店さんに任せたいなぁ。なんて思ってはいます。いかに蔵元さんと酒屋さんの想いやこだわりを伝えながらお客様に満足して帰っていただけるかを第一に考え、責任を持って日々励んでいます。

また、当店で日本酒を好きになってもっと深掘りをしたいと思うお客様には、自信を持ってお勧めできる友人のお店が沢山ありますので、口頭では勿論、Facebook等でもお勧めしていますよ。

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異なった温度帯で同じ銘柄を楽しんでもらうために橋野さんはお客様の目の前でお燗にします


—— 橋野さんにとって一番の日本酒の魅力は何ですか?

米と水だけで造っているのに、これほどのバリエーションがあることが面白いと思います。同じ蔵の同じ銘柄でも色々な味わいのお酒があり、季節によってその味が変わっていくことも日本酒ならではです。そして蔵の方々が切磋琢磨しながら毎年お酒をどんどん進化させ、確実に品質の向上を成し遂げていく様が眩しく、また楽しみで仕方ありません。先輩の蔵の方が後輩に技術を教えたりされていることも、素晴らしいと思います。

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一升瓶のキャップをリサイクルするために橋野さんが考案したマグネットは、お客様のお土産となっています


—— 最後に、今まであまり日本酒を飲まれてこなかった方たちに向けて、日本酒を美味しく、楽しく飲むために、アドバイスをお願いします。

お水でももちろん体への負担を軽減できますが、冷酒を飲むときは白湯を飲んでいただきたいと思っております。アルコールは温度が体温まで上がらないと吸収されません。なので熱燗は酔うイメージがありますが、実は早めに酔っているだけで、飲みすぎを防いでくれていると言う側面もあります。‘‘冷酒と親の小言は後で効く‘‘と言いますが冷酒は酔いがまわるまで時間差がありますので、飲みすぎに気付きにくいので注意が必要です。お客様には楽しい思い出を持って帰っていただくのが一番なので、当店では白湯を常におすすめしています。

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和酒鮮菜 笹塚・兎屋

創業二十周年。職人料理とおもてなし接客が評判のお店。日本各地からの食材を料理人暦35年の料理長の腕で料理。利き酒師である二代目の揃える日本酒、焼酎が多彩。さらに笹塚ビールも二種類完備。名物料理は熟成魚のお刺身、和牛すき焼きコロッケ、笹の葉揚げ、など。

住所: 東京都渋谷区笹塚1-10-6 1F
電話番号: 03-5454-9003
URL: www.facebook.com/sasazukausagiya