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インタビュー

インタビュー #3
公開間近!『一献の系譜』監督 石井かほりさん 2015.08.14

能登という風土が醸し出す、酒造りの世界を追ったオムニバスドキュメンタリー映画である『一献の系譜』。その監督を務めた石井かほりさんに、公開間近の映画の見所や撮影秘話などを伺いました。

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©2015 映画一献の系譜製作上映委員会


—— まずは『一献の系譜』を一言で表すと、どのような作品ですか?

“自分の道をどう生き抜くか”ということを酒造りを通して描けたと思います。

—— 撮影に至るまでの経緯はどのようなものだったのですか?

『一献の系譜』の前作に、能登半島で塩造りをする方々を追ったドキュメンタリー映画『ひとにぎりの塩』を撮りました。上映後に、映画をご覧くださった方々を連れ、現地での塩田体験ツアーを組みました。
その様子を知った能登の酒蔵関係者が映画という切り口で、地域に光をあてることができると感じて下さり、今度は、能登杜氏というテーマでドキュメンタリー映画を撮って欲しいとご依頼下さいました。
もともと能登の地酒が前作の撮影時から大好きで、また能登半島に通えると思うと胸が高鳴りました。

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©2015 映画一献の系譜製作上映委員会

—— 能登杜氏四天王のうち、現役で杜氏を務められているのは農口さんと中さんですが、他にはどの杜氏にフォーカスを当てているのですか?

蔵人、そして杜氏へと続く道は、農閑期となる冬場「出稼ぎ」として始まった背景を語る必要があったので、四天王と並び時代を生きた天保正一氏や、現能登杜氏組合長であり、日本酒造杜氏組合連合会長である中倉恒政氏にもインタビューさせていただきました。その上で現在の吟醸酒の礎を築いた能登杜氏四天王の存在を紹介し、その流儀を受け継ぐ次の世代、そして更にその次の世代の杜氏へとフォーカスを当てました。先輩たちからどのような思いや技術を受け継ぎ、苦労や葛藤の狭間でどのように酒造りと向き合っているのか。また、名人に追いつけない2番手の人や、能登杜氏初の女性杜氏のデビュー姿も捉えています。
更に、古き良き職人の世界を美しく描いたドキュメンタリーで終わらず、社員杜氏として蔵の存続を第一に考えるが故、何十年もかかって習得された職人の勘だけが頼りという造りではなく、吟醸造りをしない特定名称酒のレベルを大吟醸に近づけるように工夫し、誰もができる酒造りを目指すタイプの杜氏さんも描きました。この杜氏さんは鑑評会などでしっかりと実績を残しているので登壇しているのですが、物議を醸しているのが聞き手の表情から伝わってきて、非常に面白いシーンになっています。
これはお酒造りだけではなく日本のものづくり全般に言えることだと思いますが、職人の感覚で行われていた作業が徐々にシステム化されつつある中、何を残していくのか造り手は考えなければならないのだと思います。今回、問題定義として登場してもらった社員杜氏さんは、先輩たちから良いところを学びつつも、あえて問題提起をすることでこれからの酒造りを真剣に考えているのだと思います。彼の存在はこの作品においてとても重要なスパイスとなりました。

—— 撮影期間はどれほどだったのですか?

撮影期間は丸2年です。そしてこの期間は、この映画を撮る本質的な意味を私なりに見つける期間でもありました。
まず日本各地にある杜氏集団のなかでもなぜ能登杜氏なのかということをあぶり出そうと思いました。能登杜氏の大きな特徴の一つとして、農業も漁業も兼ねているということがあったので、酒造りをしていない時期の農家さんや漁師さんとしての姿を見つめることにしました。また、能登半島は、世界農業遺産に認定されたエリアでもあります。酒造りは米作りからとして、山間部の棚田の移り変わりを作品の重低音のように描きました。
その際、出会った「あえのこと」と呼ばれる田の神信仰。これは冬の12月から翌年2月までの間、田んぼの神様を家にお招きし、お休みしていただくものです。神様の姿は目に見え無い中、まるで見えているかのように、主が田んぼから神様を家にお連れし、囲炉裏の間で暖をとってもらい、更にはお風呂にも入ってもらって、ご馳走を捧げるのです。この「あえのこと」を知った時に、能登半島に遺る信心深さと、酒造りという険しい道を信じて進む杜氏さんたちの信仰心とが結びつき、今回の映画のテーマが見つかった気がしました。

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©2015 映画一献の系譜製作上映委員会

—— 撮影で一番大変だったことは何ですか?

撮影対象が人智を越えた菌類によるお酒だったということです。かなり余裕を持って挑んだはずの撮影スケジュールが、後がなくなるという窮地に立たされ、背筋が凍る思いもしました。しかし、土壇場で予定通りにはまったりもして、さすが、名人杜氏故の業を見た気がします。

—— メッセージとして一番伝えたかったことは何ですか?

作品をご覧いただいて感じて頂けることがすべてですが、私が撮影を通して学んだことは、今の60代以前の方たちは出稼ぎに出ざるを得ない状況で酒造りを行い、更に杜氏となるだけでなく、数々の優秀な成績を遺して行かれたという精神の崇高さです。人間は生まれ堕ちる場所を選べない中、どんな過酷な環境でも生き抜き、高みを目指していかねばならないと教えられた気がします。
そういう点から、この映画は文部科学省選定作品に認定され、学生向けの教材としても推奨されました。
また兎角、お酒は味覚で語られることが多いですが、本作は日本酒を「文化」として描くことを心掛けています。日本酒の背景にある思いや歴史を知ることで、日本酒そのものをより味わい深く感じて頂けたら嬉しいです。

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©2015 映画一献の系譜製作上映委員会

—— 撮影を終えて、日本酒への思いや考え方はどの様に変わりましたか?

まずはヤケ酒はしなくなりました (笑) 。お酒に失礼ですからね。あとは残さないことですね。これは米粒を残さないのと一緒のことです。
皆さんにも造り手をより知ってもらい、それぞれのお酒の特徴をつかみ、愛着を持ってもらうきっかけになったらと願っています。


Gonomeeと能登杜氏

2015年に行われた第百十一回能登杜氏自醸清酒品評会において、清水清三郎商店の内山智広杜氏が最優秀賞を受賞されました。Gonomeeではその内山杜氏が醸す『作』と『鈴鹿川』を取扱っています。

内山杜氏は一献の系譜にもご登場されます。映画をご覧の後に、ぜひお試しください!


一献の系譜

日本人の主食「米」と向き合い、
目に見えない菌と闘い、理想の一献を目指す。
現代を生き抜く能登杜氏たちの、酒造りへのこだわりと、挑み続ける理由とは・・・・・。

9月26日 (土) より新宿武蔵野館 (03-3354-5670) にて公開!
オフィシャルウェブサイト: ikkon-movie.com

ストーリー
石川能登半島を出身とする酒造りの技能集団「能登杜氏」。そんな彼らの夏はというと……漁業や農業に勤しみ、自然と共に暮らす姿がありました。酒造りとは、農閑期となる冬、現金稼ぎのため仕事を求め働きに出たことが始まりだったのです。家族と離れ、辛く厳しい現場で、蔵全体の行く末を左右するほどの責任が課せられるたった一人の選ばれし「杜氏」というポジション。その昔、酒を腐らせ自殺する者もいたと言います。
全国の杜氏集団の中でも、現在の吟醸酒の礎を築いた有名杜氏たち四人衆。「能登杜氏四天王」。彼らが築き遺したもの、それは後輩杜氏の中に息づいていました。
四人全員を師とする現役トップの杜氏、坂口幸夫氏と家修氏。そして、その下に続く、若手杜氏たち。その中には、能登杜氏始まって以来の初の女性杜氏のデビュー姿や、大きすぎる先輩の背中に追いつけないジレンマの中にある者も・・・・・。


映画監督・石井かほりさんのプロフィール

聖心女子大学文学部哲学科卒。
短編映画『おばあちゃま ごめんね』が大阪阿倍野ヒューマンドキュメンタリー映画祭にて入賞。日本最古の型染めの技法・木版染め職人を記録した映画『めぐる』 (5ヵ国8都市上映) でメジャーデビュー。後、羽田澄子監督に師事。2011年に石川県能登半島に古くから伝わる塩づくりに励む人びとの姿を追ったドキュメンタリー映画『ひとにぎりの塩』 (セブ国際ドキュメンタリー映画祭2013・最優秀撮影賞受賞) を全国公開。監督自らが企画した映画ロケ地と地元の方との触れ合いをめぐる「塩田体験ツアー」により観光へと結びつける。

オフィシャルウェブサイト: www.gulicreates.com/kaoriishii/index.html